クラフトビールOEMとは、結局なにをすることなのか
製造免許を持つ醸造所に中身を造ってもらい、自分たちはブランドと売り方を決める。この2つを分けて進める仕事です。 「ビールを作る」より「誰が造り、誰が売るのかを決める」ほうが先に来ます。
日本でビールを造るには、品目別・製造場ごとに所轄税務署長の製造免許が要ります(酒税法7条1項)。ここが動かせないので、設備を持たない側にできることは「造ってもらう」しかありません。その代わり、企画・名前・ラベル・売り場・価格は全部こちら側に残ります。
造る主体と売る主体が分かれるこの形そのものについては、ファントムブリュワリーとは何かで、呼び名の由来と国内で成立が確認できる形だけを整理しています。
この記事の役割と、詳しい話の送り先
この記事は通しの地図です。1つの工程を深く知りたいときは、それぞれの記事へ送ります。
- 発注書にサインする前に決めておくこと → はじめてのビールOEM。売主・本数と容器・中身の方向・ラベルの余白・賞味期限・出口・見送る判断の7つを、決める順に並べています
- 委託先の醸造所をどう選ぶか → ビールの委託先の醸造所は、何を基準に選ぶのか。設備・免許・契約の3つと、初回に訊く12項目を扱っています
- 納期の逆算 → ビールOEMの納期はどれくらい?。工程ごとの日数を分解し、発売日から逆算する方法をまとめています
- 誰にどの免許がかかるか → ビール製造免許なしでオリジナルビールを販売する方法。製造免許と販売業免許の分かれ目を条文で分けています
- 小ロットほど1本あたりが高くなる理由 → 小ロットのクラフトビールは、なぜ1本あたりが高いのか。本数では割れない4つの費用から説明しています
先に押さえておく分かれ目は1つ
「自分が売主になるのか、ならないのか」です。 ここで必要な免許も、EC の名義も、請求の流れも変わります。この記事では3つ目の見出しで扱いますが、相談の最初の30分で必ず出てくる論点なので、頭の隅に置いたまま読み進めてください。
相談から販売まで、どういう順に進むのか
9つの段を順に通ります。相談 → ブランド設計 → レシピ → 試作 → ラベル → 仕込み → 充填 → 納品 → 販売。前の段が後ろの段を縛るので、飛ばして戻ると必ず作り直しが出ます。
TSURATSURA のサービスページには、問い合わせから伴走までの進み方が9段で公開されています(TSURATSURA サービス FLOW/2026年9月8日に確認)。以下は、それを OEM の1本に当てはめて並べ直したものです。
各段で、発注側が決めること
| 段 | 何が起きるか | 発注側がここで決めること |
|---|---|---|
| 1 相談 | 目的・出口・時期をすり合わせる | 誰に渡すのか、いつまでに要るのか |
| 2 ブランド設計 | コンセプト・ターゲット・ストーリー・ネーミング | ブランド名と、何を語るビールにするか |
| 3 レシピ | 醸造所と味・風味の方向を設計する | 中身の方向(スタイル、副原料を入れるか) |
| 4 試作 | 試験醸造を挟むかどうかを判断する | 試作を挟むか、初回ロットをそのまま本番にするか |
| 5 ラベル | ラベル・パッケージ・キービジュアルの制作 | 表示に使う面積を残したうえでの、絵柄と情報の優先順位 |
| 6 仕込み | 醸造所の仕込み枠に乗る | ここから先は日程を動かしにくい。発売日から逆算する |
| 7 充填 | 缶に詰める。容器と本数が確定する | 本数と容器。変更はここまで |
| 8 納品 | 保管と配送の条件が決まる | 保管条件(冷蔵指定になるか)と、置き場所 |
| 9 販売 | EC で販売を開始する | 価格、初動の売り方、次のロットを打つ条件 |
TAP TO BREW の場合、1〜9のうち OEM 製造・ブランド設計・デザイン制作・EC 販売導線・初動販促支援・メディア露出の6領域を1社で受けています(TAP TO BREW サービスページ/2026年9月8日に確認)。窓口が1つか複数かは、費用よりも「決め直しが起きたときの戻り幅」に効きます。
動かせないのは6段目
1〜5は、こちらの都合で前後させられます。6段目の仕込みだけは醸造所の枠なので、空いている日から逆に日程が決まります。 発売日が先に決まっている企画では、ここを起点に全部を逆算することになります。日数の目安はビールOEMの納期はどれくらい?にまとめてあります。
試作を挟むかどうかは、費用の回数の話
試作も1回の仕込みです。 レシピを細かく追い込みたいほど、仕込みの回数がそのまま増えます。逆に、初回ロットを小さくして市場の反応を見てから2回目を厚くする組み方なら、試作を別立てにしない選択もあります。どちらが正しいかではなく、回数を先に決めておくという話です。
誰が売主になるのか
酒類を売る主体には、販売場ごとに酒類販売業免許が要ります(酒税法9条1項)。だから「誰が売るか」を決めないと、免許の話がそもそも始まりません。
条文はこの2本
酒税法第9条第1項は「酒類の販売業又は販売の代理業若しくは媒介業(以下「販売業」と総称する。)をしようとする者は、政令で定める手続により、販売場(中略)ごとにその販売場の所在地(中略)の所轄税務署長の免許(以下「販売業免許」という。)を受けなければならない」と定めています。
罰則もあります。同法第56条第1項は「次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する」とし、その第1号に「第九条第一項の規定による販売業免許を受けないで酒類の販売業をした者」を挙げています(いずれもe-Gov 法令検索 酒税法・法令ID `328AC0000000006`/2026年9月8日に原文取得)。
TAP TO BREW の場合、販売元は醸造所の花園クラフト
連携先の醸造所・花園クラフト(大阪府東大阪市)が製造し、販売元になります。 サービスページには「不要です。製造・販売は連携先の醸造所・花園クラフト(大阪府東大阪市)が行い、TSURATSURAは企画・デザイン・窓口を担います。クライアント様が酒類の免許を取得する必要はありません」と明記されています(前掲・TAP TO BREW サービスページ/2026年10月19日に確認)。
依頼側に免許が要らないのは、売主が依頼側ではないからです。 主語を省いて「OEM なら免許は不要」と読むと、事実と違います。
自分が売主になるなら、この形は使えない
自社が売主として自社の EC で売りたい場合、TAP TO BREW の販売代行の形は当てはまりません。 その会社に、販売場ごとの酒類販売業免許が要ります(酒税法9条1項)。通信販売で複数の都道府県の消費者に売るのか、店頭で売るのか、酒販店に卸すのかで区分も変わります。区分ごとの分かれ目はビール製造免許なしでオリジナルビールを販売する方法で条文ごとに分けています。
この判断は後ろに送れません。 売主が変わると、缶に載る事業者名も、EC の名義も、請求の流れも全部変わるからです。
造る側には、何がかかるのか
製造免許・酒税の納税義務・容器への表示義務の3つが、造る醸造所にかかります。ブランド側にはかかりません。だからラベルの「製造者」は、醸造所の名前になります。
製造免許(酒税法7条1項)
「酒類を製造しようとする者は、政令で定める手続により、製造しようとする酒類の品目(中略)別に、製造場ごとに、その製造場の所在地の所轄税務署長の免許(中略)を受けなければならない」(前掲・e-Gov 酒税法/2026年9月8日に原文取得)。
かかるのは「製造しようとする者」であって、レシピを考えた人でも、名前を付けた人でもありません。委託して造ってもらう限り、ブランド側が製造免許を取る話にはなりません。
酒税の納税義務(酒税法6条1項)
「酒類の製造者は、その製造場から移出した酒類につき、酒税を納める義務がある」(同)。納税義務者は醸造所です。 発注側から見ると、酒税は醸造費のなかに織り込まれて請求される形になります。見積を読むときは、税込みで見ているのか、税抜きで見ているのかを1回だけ確認しておくと、あとで単価がずれません。
ラベルに載る名前(酒類業組合法86条の5・同施行令8条の3第1項)
表示義務の根拠は酒税法ではなく、酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律86条の5です。同施行令8条の3第1項は、酒類製造業者が製造場から移出する酒類の容器の見やすい箇所に、その氏名又は名称・製造場の所在地と、次の事項を表示しなければならないと定めています。
- 内容量
- 当該酒類の品目
- アルコール分
- 雑酒の場合は、税率の適用区分を表す事項
- その他の発泡性酒類の場合は、発泡性を有する旨を表す事項
(e-Gov 酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律・法令ID `328AC0000000007` /同施行令・法令ID `328CO0000000028`/いずれも2026年9月8日に原文取得)
つまり「製造者」欄に入るのは、造った醸造所の名称と製造場の所在地です。 自分たちのブランド名は別の場所に載せられますが、製造者の欄をブランド名に差し替えることはできません。ここを勘違いしたままデザインを詰めると、入稿直前に版を作り直すことになります。ラベルの余白の取り方ははじめてのビールOEMに書きました。
やらないほうがいい場合
次の3つのどれかに当てはまるなら、いまは発注を見送るほうが妥当です。
売主を決められないとき
誰が売るのかが未定のまま進むと、免許・缶に載る事業者名・EC の名義・請求のすべてが宙に浮きます。免許は売る主体にかかるので、この1つだけは後回しにできません。 「とりあえず造ってから考える」は、缶ができてから作り直す道です。
出口の日数を計算できないとき
ロットの本数を、1日に渡せる本数で割ってください。その日数が賞味期限の内側に収まるかどうかが、発注可否の分かれ目になります。小ロットは在庫を小さくする手段であって、出口の代わりにはなりません。 誰に、どこで、何日かけて渡すのかが白紙なら、いちばん小さいロットでも残ります。
中身そのものを何度も試したいとき
前述のとおり、試作も1回の仕込みです。レシピを追い込む回数が、そのまま費用の回数になります。 味の実験が目的なら、小ロットの委託は安い手段になりません。その場合は、自分の設備を持つ道と比べたほうが早く答えが出ます。
費用の目安・期間・最低ロット
TAP TO BREW の場合、判断に必要な3つはここです(いずれも前掲・TAP TO BREW サービスページ/2026年9月8日に確認)。
- 最低ロット — 350ml缶で 48本 から
- 費用の目安 — 初期制作費 50〜70万円。うち OEM醸造費が 20〜25万円(48本〜対応)で、ブランドコンセプト設計・ラベルとパッケージのデザイン・EC販売導線の構築・初動プロモーション設計を含みます。以降は継続支援費との2層構造で、2回目以降は OEM醸造費(20〜25万円/ロット)のみ
- 期間 — 初回ヒアリングからリリースまで 約2〜3ヶ月(ブランド設計・デザインに約1ヶ月、醸造に約1ヶ月、EC構築とプロモ準備に約2週間)
これは相場ではなく、TAP TO BREW の公開値です。 他社の条件はそれぞれ違うので、比べるときは同じ範囲(醸造だけか、デザインと EC まで含むか)で並べてください。
よくある質問
Q. 最低何本から作れますか。 A. TAP TO BREW の場合、350ml缶で48本からです。 まず小ロットで販売し、反応を見てから追加醸造する流れを前提にしています。ただし本数を減らしても、仕込みや版のように本数で割れない費用は減らないため、1本あたりの単価は上がります。
Q. 依頼する側に、酒類の免許は要りますか。 A. TAP TO BREW の形では要りません。連携先の醸造所・花園クラフト(大阪府東大阪市)が製造し、販売元になるからです。 逆に、自社が売主として自社の EC で売るなら、その会社に販売場ごとの酒類販売業免許が必要です(酒税法9条1項)。
Q. ラベルの「製造者」は、依頼した側の名前になりますか。 A. なりません。 表示義務は酒類製造業者にかかり、容器には製造業者の氏名または名称と製造場の所在地を表示します(酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律86条の5、同施行令8条の3第1項)。ブランド名は別に載せられますが、製造者の欄は造った醸造所の名前です。
次の一歩
持ってきていただきたいのは、①誰が売主になるか ②誰に何日かけて渡すか の2つです。 この2つが決まっていれば、残りは相談しながら詰められます。決まっていなければ、その整理から一緒にやります。TAP TO BREW のサービスページから、30分の無料相談を受け付けています。