地域の名前でビールを作るとき、何をどの順で決めるのか
決めるのは6つです。①誰が主体になるか ②何を入れるか(品目)③地名をラベルに書けるか ④商品名を商標で押さえられるか ⑤誰が売主になるか ⑥予算はどの枠から出るか。この順で決めます。
6つとも、あとから変えると前の工程が丸ごと戻ります。ラベルのデザインを描いてから副原料を足すと品目表示が変わり、名前を決めてから商標を調べるとネーミングからやり直し、缶が完成してから売り方を考えると売り先がありません。先に決められるものから決めるのではなく、後戻りの大きいものから決めます。
逆順で進むと、どこで戻るのか
現場で起きる戻りは、だいたいこの3つです。
- ラベルを描いてから、レシピを足した — 特産品の量が増えて品目が「ビール」から「発泡酒」に変わり、缶の表示を作り直す
- 名前を決めてから、商標を調べた — 先行商標にぶつかり、ロゴもドメインもSNSのアカウント名も取り直す
- 缶ができてから、売り方を決めた — 誰も酒類販売業免許を持っておらず、在庫が動かせない
この記事に「成功事例」を並べていない理由
地域名も自治体名も出典も無い事例は、判断の材料にならないからです。 以前この記事には匿名の事例が7件並んでいましたが、公表資料で裏の取れない数字は、読んだ人が自分の企画に当てはめる根拠になりません。事例の代わりに、どの順で何を確かめるかを条文と告示の原文で置き直しました。
実名の事例が要る場合は、その自治体の公式発表と、担当課の公表資料を直接あたってください。
主体が誰かで、予算の出どころも要る免許も変わる
主体になり得るのは自治体・第三セクター等の法人・民間事業者・地域おこし協力隊員の4つで、変わるのは「予算の出どころ」「誰が売主になれるか」「意思決定の速さ」の3つです。
商品の中身は主体が変わっても同じです。変わるのは、その商品を動かすための手続きの側です。
自治体・第三セクターが主体のとき
関門は予算です。財政措置の要綱に上限額が書かれていても、自治体の当初予算に計上されていなければ支出はできません。
免許の側では、公共団体であることは理由になりません。国税庁の法令解釈通達は「酒類の販売業」の意義を「酒類を継続的に販売することをいい、営利を目的とするかどうか又は特定若しくは不特定の者に販売するかどうかは問わない」と定めています(国税庁 法令解釈通達 第9条 第1項関係1、2026年9月6日確認)。営利でないから外れる、という読み方はできません。
民間事業者が主体のとき
自分で酒類販売業免許を取るか、免許を持つ販売元に売主を委ねるかの二択になります。速さでは有利ですが、地場産品の証明や公共施設での販売では、自治体側の関与が別に要ることがあります。
地域おこし協力隊員が主体のとき
財政措置の上限は隊員1人あたり550万円で、うち報償費等が350万円、報償費等以外の活動に要する経費が200万円です(地域おこし協力隊推進要綱 別添1(4)、2026年9月6日にPDFの原文で確認)。報償費等は隊員本人に支払われる人件費の側なので、ここからビールの制作費は出ません。
「年間最大480万円」という数字は、現行の要綱には出てきません。 古い額を前提に企画書を書くと、担当課が要綱を開いた時点で食い違います。
商品開発にいちばん近い枠は別にあります。任期2年目から任期終了後3年以内に、活動地と同一市町村内で起業する者・事業を引き継ぐ者への措置で、1人あたり100万円が上限、起業で1人以上の新規雇用をした場合(事業承継なら雇用数を維持した場合)は200万円が上限です。必要経費の例に「知的財産登録に要する経費」「マーケティングに要する経費」「新商品開発、新技術導入等による付加価値向上に要する経費」が並んでいます(同 別添1(6))。
地域の特産品を入れると、品目が「ビール」でなくなることがある
線は2本です。麦芽がホップと水以外の原料の合計の50%以上であること。そして政令で定める物品の合計が麦芽の重量の5%を超えないこと。どちらかを外すと、品目は「発泡酒」になります。
酒税法第3条第12号ロは、ビールをこう定義しています。「麦芽、ホップ、水及び麦その他の政令で定める物品を原料として発酵させたもの(その原料中麦芽の重量がホップ及び水以外の原料の重量の合計の百分の五十以上のものであり、かつ、その原料中政令で定める物品の重量の合計が麦芽の重量の百分の五を超えないものに限る。)」(e-Gov 酒税法、2026年9月6日に原文取得)。
5%の枠がかかるのは、政令の2号だけ
ここが最も取り違えられます。酒税法施行令第6条第1項は、副原料を2つのグループに分けています。
| 号 | 中身 | 5%の枠 |
|---|---|---|
| 第1項第1号 | 麦、米、とうもろこし、こうりやん、ばれいしよ、でん粉、糖類、財務省令で定める苦味料・着色料 | かからない |
| 第1項第2号 | 果実(乾燥・煮つめたもの、濃縮果汁を含む)、コリアンダーその他の財務省令で定める香味料 | かかる |
同条第2項が「法第三条第十二号ロに規定するビールの原料中政令で定める物品及び同号ハに規定する政令で定める物品は、前項第二号に掲げる物品とする」と、5%の対象を第2号に限定しています(e-Gov 酒税法施行令、同日に原文取得)。
つまり、地元の果物や香草を入れるなら5%の枠、地元の米や麦を入れるなら効くのは50%の線です。「副原料は麦芽の5%以内」と一括りに書いた資料は、この区別を落としています。
品目が変わると、税額はどうなるのか
2026年10月1日以降は、動きません。 ビール系飲料の税率が1kLあたり155,000円に一本化されるためです。詳しくは2026年10月の酒税改正にまとめました。
2026年9月30日までは、麦芽比率によって差があります。国税庁の酒税率一覧表(1kLあたり)では、ビールが181,000円、発泡酒のうち下記3区分に該当しないもの(麦芽比率50%以上がここに入る)も181,000円、麦芽比率25%以上50%未満でアルコール分10度未満が155,000円、麦芽比率25%未満でアルコール分10度未満が134,250円です(国税庁 酒税率一覧表、2026年9月6日にPDFの原文で確認)。
「発泡酒になると税金が上がる」という言い方は正確ではありません。 麦芽比率50%以上の発泡酒はビールと同額で、50%を割ると現行制度では下がります。2026年10月1日以降は、どこに落ちても同じです。
変わるのは、缶に書く品目表示のほう
税額が同じでも、ラベルの品目欄は「ビール」から「発泡酒」に変わります。 商品名として「◯◯ビール」と付けたい場合、品目表示は別欄で正しく出す必要があります。この判定は、ラベルのデザインに入る前、レシピを決める場で片が付きます。
地名と商品名は、ラベルに書けるのか
地名は書けます。ビールを酒類区分とする地理的表示(GI)は1件も指定されていないためです。商品名のほうは、地名と一般名称だけの組み合わせだと商標登録が難しくなります。
GIの指定にビールは1件も無い
国税庁長官が指定した酒類の地理的表示は31名称・34件で、酒類区分は清酒・ぶどう酒・蒸留酒・その他の酒類の4つだけです。その他の酒類の枠にある唯一の指定は和歌山梅酒で、ビールを対象にした指定はありません(国税庁 酒類の地理的表示一覧、2026年9月6日に一覧を取得して確認)。
制度がビールを外しているわけではありません。国税庁は「平成27年に見直しを行い、すべての酒類が制度の対象となりました」としています(国税庁 酒類の地理的表示、同日確認)。まだ誰も取っていないだけです。
GIとして指定済みの地名でも、ビールなら書ける
「北海道」「京都」「福岡」はいずれもGIとして指定されていますが、ビールのラベルには書けます。酒類区分が違うからです。
表示基準第10項第7号が「地理的表示の酒類区分と異なる酒類区分の酒類に地理的表示の名称と同一又は類似の表示を使用する場合」を、第9項の使用禁止の適用除外にしています(国税庁告示第19号、同日に原文取得)。GI「北海道」はぶどう酒、GI「京都」は清酒の区分で、ビールは「その他の酒類」に入るため区分が異なります。
ただし「GI」の3文字は書けません。 同じ告示の第12項が「地理的表示を使用していない酒類には、『地理的表示』、『Geographical Indication』又は『GI』の文字を使用してはならない」と定めており、ビールは全部がこの対象です。
商標で調べる区分は第32類
ビールは第32類です。第33類は清酒・焼酎・洋酒・果実酒などで、ビールを含みません。 商標法施行規則の別表は「第三十二類 一 ビール(黒ビール、スタウト、ラガービール)」と定めています(e-Gov 商標法施行規則 別表、2026年9月6日に原文取得)。第33類だけ調べても、先行商標は出てきません。
地名と一般名称だけの名前は、そもそも登録が難しくなります。商標法第3条第1項第3号が「その商品の産地、販売地、品質、原材料……を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」を登録できないものとして挙げているためです(e-Gov 商標法、同日に原文取得)。使用の結果として識別できるようになった場合は同条第2項で救われますが、発売前の新しいブランドがここに乗ることは期待できません。
産地の名前そのものを守りたい場合は、第7条の2の地域団体商標という道が残っています。ただし出願できるのは事業協同組合・商工会・商工会議所・NPO法人などの組合等で、1社や1自治体では出願できません(同)。
誰が売主になるのかを、企画の最初に決める
免許は売る主体に、販売場ごとにかかります。作る前に、誰が代金を受け取るのかを決めます。
酒税法第9条第1項は「酒類の販売業又は販売の代理業若しくは媒介業(以下「販売業」と総称する。)をしようとする者は、政令で定める手続により、販売場(継続して販売業をする場所をいう。以下同じ。)ごとにその販売場の所在地……の所轄税務署長の免許……を受けなければならない」と定めています。免許を受けずに販売業をした場合は、第56条第1項第1号により1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金です(e-Gov 酒税法、2026年9月6日に原文取得)。
委託先の醸造所やOEM会社が免許を持っていることは、自分が酒類を売ってよい根拠になりません。 判定の主語は常に「誰が売主か」です。
道の駅や直売所の店頭で売るなら
その販売場について、売主が酒類小売業免許を受けます。前掲の通達は、製造場・販売場以外の特定の場所で「酒類の販売代金の受領及び酒類の現物の引渡しを継続的に行う場合においては、その場所について酒類の販売業免許が必要である」としています(同通達 第1項関係6(1))。施設の運営者と、代金を受け取る主体が別なら、免許を持つべきなのは後者です。
自社ECで売るなら
通信販売酒類小売業免許です。店頭の免許はこれを代替しません。
TAP TO BREW の場合、連携先の醸造所・花園クラフト(大阪府東大阪市)が製造し、販売元になるため、花園クラフトが売主として売る分については依頼側が免許を取る必要はありません(/pages/tap-to-brew)。免許不要と書くときは、誰が売主なのかを同じ文の中に置いてください。 主語を伏せた「免許不要」は、そのまま企画書の欠陥になります。
ふるさと納税の返礼品として送るなら
自治体側に免許が要るかどうかは、国税庁の公表資料では確認できませんでした。所轄税務署の酒類指導官に照会してください。
確認できなかったのは「ふるさと納税という枠組みを名指しで扱った公的な記述」です。判定の枠組み自体は上の条文と通達で確定していますが、寄附という別の法律関係の上に乗った引き渡しをどう位置づけるかは、公表資料から読み取れませんでした。書かれていないことを「不要」と読み替えないでください。
2年目に止まるのは、たいてい同じ3か所
担当者の異動、最低ロットの消化、置き場所の温度帯の3つです。どれも初年度には表面化しません。
担当者が代わると、判断の根拠が消える
品目をどう判定したか、地名を書ける根拠は何か、売主を誰にしたか。これらが個人の頭の中にしかないと、引き継いだ人は同じ判断をやり直せません。決めた根拠と、参照した条文・告示の場所を、企画書の中に残してください。 この記事が条番号まで書いているのは、そのまま引用できる形にしておくためです。
ロットは、売り切る速度から逆算する
最初のロットが余ると、2回目の予算が付きません。イベントの動員見込みではなく、常設で毎月動く本数から逆算します。 テスト販売の規模を小さく取れるかどうかが、ここで効きます(TAP TO BREW の場合、最低ロットは350ml缶で48本から)。
常温で置けるかどうかは、熱処理の有無では決まらない
決めているのは、商品ごとに製造者が付ける保存方法の指定です。酵母が残るものには要冷蔵が付きやすく、ろ過して酵母を落としたものには常温で流通できるものがあります。 独立行政法人 酒類総合研究所の資料は「熟成したビールはろ過してビール酵母を除き、品質を安定化させます。かつてはろ過に加え、殺菌のための熱処理もしていましたが、醸造機器の性能と雑菌除去の技術が著しく向上したため、現代の日本では生ビールとしてろ過だけで品質を安定させるのが一般的です」と説明しています(酒類総合研究所 情報誌「お酒のはなし」ビール、2026年9月6日にPDFの原文で確認)。
「生ビール(非加熱)だから要冷蔵」ではありません。 逆に、無濾過や酵母入りの製品には造り手が冷蔵での保存を指定していることがあります。道の駅の常温棚に置く前提なら、レシピを決める場で確認しておく項目です。
賞味期限にも注意が要ります。酒類は、消費期限・賞味期限と保存の方法の表示そのものを省略できます。 食品表示基準第3条第3項の表が、省略できる区分に「酒類」を挙げています(e-Gov 食品表示基準、2026年9月6日に原文取得)。缶に書いていないことがあるので、在庫の持ち時間は製品ごとに造り手へ確認してください。
費用の目安・期間・最低ロット
判断に要る3つを、ビール側と制度側に分けて置きます。
ビール側(TAP TO BREW の場合)
/pages/tap-to-brew に公開している条件です。
- 最低ロット — 350ml缶で48本から
- 初期制作費 — 50〜70万円(うちOEM醸造費20〜25万円)
- 期間 — 初回ヒアリングからリリースまで約2〜3ヶ月(同ページのFAQ。工程は/pages/services のFLOW)
- 免許 — 連携先の醸造所・花園クラフト(大阪府東大阪市)が製造し、販売元になる
自分の醸造所を建てる選択肢と比べたい場合は、自分の醸造所を持つには年間いくら作るのかに製造免許の年間最低製造数量をまとめています。醸造所を持たずにブランドだけを立てる形についてはファントムブリュワリーとは何かを参照してください。
制度側(地域おこし協力隊の枠を使う場合)
- 活動経費 — 隊員1人あたり200万円が上限。住居・活動用車両・旅費なども同じ枠
- 起業・事業承継 — 1人あたり100万円が上限。起業で1人以上の新規雇用をすれば200万円が上限
- 手続き — 国への事前申請は不要。実務上の関門は自治体の当初予算に載っているか
この記事の6つのうち、①主体 ②品目 ⑤売主の3つが決まっていれば、初回の相談で費用と期間の見通しまで出せます。 地名と商標は、名前の候補が出てから調べる順で構いません。
出典
- e-Gov 酒税法(昭和28年法律第6号) 第3条第12号・第9条第1項・第56条第1項第1号(2026年9月6日に原文取得)
- e-Gov 酒税法施行令(昭和37年政令第97号) 第6条第1項第1号・第2号、第2項(同)
- e-Gov 商標法(昭和34年法律第127号) 第3条第1項第3号・第2項、第7条の2(同)
- e-Gov 商標法施行規則(昭和35年通商産業省令第13号) 別表 第32類・第33類(同)
- e-Gov 食品表示基準(平成27年内閣府令第10号) 第3条第3項(同)
- 国税庁法令解釈通達 第9条 酒類の販売業免許 第1項関係1・6(1)(同)
- 国税庁酒類の地理的表示一覧(指定31名称・34件、ビールを酒類区分とするものは0件。同)
- 国税庁酒類の地理的表示に関する表示基準を定める件(平成27年10月国税庁告示第19号) 第9項・第10項第7号・第12項(同)
- 国税庁酒類の地理的表示(平成27年の見直しで全酒類が制度の対象。同)
- 国税庁酒税率一覧表(令和5年10月1日〜令和8年9月30日)PDF(同)
- 総務省地域おこし協力隊推進要綱 別添1(4)・(6)(令和8年3月5日 総行応第40号 一部改正。同)
- 独立行政法人 酒類総合研究所情報誌「お酒のはなし」ビール(同)