地域限定ビールの企画で、最初に決まるのは「誰が売主になるか」
決まるのは味でも名前でもなく、誰の名前で売るかです。 ここが決まらないと、要る免許も、価格の決め方も、出荷の形も決まりません。
「地元の◯◯を使ったビールを作りたい」という相談は、ほぼ全部が産品の話から始まります。ただ、産品の候補が3つあっても企画は止まりませんが、売主が決まっていないと発注書を書けません。順番としては、売主が先です。
免許は「売る主体」に「販売場ごと」にかかる
酒税法第9条第1項は、酒類の販売業をしようとする者は販売場ごとにその所在地の所轄税務署長の免許を受けなければならない、と定めています。条文は「販売業又は販売の代理業若しくは媒介業」を対象にしていて、他人の商品を預かって売る形も含みます(e-Gov 酒税法、2026年9月8日に条文を取得して確認)。
免許を受けずに販売業をした者は、1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金です(同法第56条第1項第1号、同日確認)。罰則がかかるのは企画した側ではなく、売った主体です。
ただし同項ただし書きが、酒場・料理店その他、酒類をもっぱら自己の営業場において飲用に供する業を対象から外しています。グラスに注いでその場で飲んでもらうなら免許は要らず、缶のまま渡した瞬間に要ります。 この線は売り場を決めるときにもう一度出てきます。
TAP TO BREW の場合、売主は醸造所の花園クラフト
連携先の醸造所・花園クラフト(大阪府東大阪市)が製造し、販売元となる形をとる限りにおいて、依頼する側は免許を取らずにEC販売まで進められます(TAP TO BREW、2026年9月8日時点の公開情報)。
主語を省いて「免許不要」とだけ言うと意味が変わります。免許が要らないのは、依頼側が売主にならないからです。 誰が売主かを書かない説明は、そこだけ読むと成り立たない話になります。
自分が売主になるなら、この形は使えない
自治体や運営会社が自分の名前で棚に並べる、直売所が仕入れて売る、自前のオンラインストアで自分が売る——このどれかを選ぶなら、その主体に販売場ごとの免許が要ります。 販売元を外に置く形と、自分が売主になる形は、同時には選べません。
どちらを選ぶかで、企画の残りが全部変わります。 免許の取得期間を工程表に入れるかどうかも、ここで決まります。
地元の産品の扱い方は3通りある。どれを選ぶかで決める順番が変わる
原料として入れる/名前と絵柄で出す/売り場と結ぶ。この3つは制度上の重さが違います。
「特産品を活かす」と言ったときに、原料に入れる以外の選択肢が消えていることがあります。3つを並べてから選ぶと、企画の速度が変わります。
原料として入れる — 品目の判定が1工程増える
地元の果実や農産物を副原料として入れると、できあがったものの品目が「ビール」なのか「発泡酒」なのかを、レシピの段階で判定する工程が入ります。
判定は名前と量の2段階です。 政令・省令が名指ししていない産品は量を減らしても入れられず、名前がある産品でも重量の枠がかかります。この2段階の読み方は地元の産品をビールに入れると、何が変わるのかに、入れられるものの全区分はビールに入れられるもの一覧にまとめてあります。この記事では法令側を深追いしません。
必要な重量をここに書かないのは、レシピとロットが決まるまで計算できないからです。 麦芽の量も副原料の上限も、仕込みの設計が決まって初めて出る数字です。企画書の段階で「◯g程度」と置くと、その数字が独り歩きします。
名前と絵柄で出す — 確認は商標と地名の2つ
産品を原料に入れなくても、名前とラベルで土地を出す設計は取れます。確認するのは商標の区分と、地名の書き方の2つです。
商標はビールが第32類です。第33類は清酒・焼酎から始まる区分で、ビールを含みません。「酒だから33類」で調べると先行商標が出てこないので、ぶつかったときの手を含めて考えた名前が先行商標に当たったにまとめてあります。地名そのものはラベルに書けますが、「GI」の3文字だけは条件が違います(地理的表示(GI)はビールのラベルに書けるのか)。
売り場と結ぶ — 「そこでしか買えない」は供給側の設計
産品を入れなくても、売り場を絞れば地域限定は成立します。 どこに出すかを決めるのは企画側なので、これは制度ではなく設計の話です。
ただし「限定」と書いたら、書いたとおりに運用します。 期間・数量・売り場の限定を掲げて実際には違う運用をすると、景品表示法の有利誤認の問題になります。売り場を絞る設計の条件は観光地で限定ビールを売るにまとめてあります。
売り場ごとに変わるのは免許・売主・出荷の形。変わらないのは2つ
売り場を1つ足すたびに、要る免許と売主が変わります。 変わらないのは、ロットと年齢確認の2つだけです。
売り場と、要る免許の対応
| 売り場 | 誰が売主になるか | 要る免許 | 詳しくはこちら |
|---|---|---|---|
| 直売所・道の駅・物産館 | 棚に置く施設か、委託を受けて売る事業者 | 一般酒類小売業免許(販売場ごと) | 道の駅でオリジナルビールを売るのに要る免許 |
| 自社EC・通販 | ストアを運営する主体 | 通信販売酒類小売業免許 | 自社ECで売るときの免許 |
| 卸(飲食店・酒販店へ) | 卸す主体 | 自己商標酒類卸売業免許 | オリジナルビールを酒販店に卸すには |
| イベント・催事 | その場で売る主体 | 期限付酒類小売業免許 | イベントで1日だけ売りたい |
| ふるさと納税 | 寄附者へ引き渡す事業者 | 引き渡す主体側の販売業免許 | ふるさと納税で酒類を返礼品にする |
| 自店で注いで提供 | — | 不要(酒税法9条1項ただし書き) | 飲食店にオリジナルビールを置くと |
5つの販路を横並びで比べた一覧はオリジナルビールはどこで売れるのかにあります。免許は販売場ごとなので、1か所で取れても2か所目は自動では付いてきません。
売り場は複数でよい。ただし同時に開かない
1本目から全部の売り場を開こうとすると、免許の取得期間の一番長いものに引きずられます。 店頭とECでは要る免許が違い、申請から交付までの期間も違います。
先に開くのは、在庫が動く見込みが立っている売り場です。 残りは2ロット目以降に足せます。売り場を足すたびに手取りが変わるので、価格の式(次の節)はそのつど引き直します。
変わらないのは、ロットと年齢確認
どの売り場を選んでも、作る本数は変わりません。 TAP TO BREW の場合は350ml缶48本からです。48本を何日で捌くかは売り場ごとに違うので、判断材料は「何本作るか」ではなく「1日あたり何本出るか」になります。
年齢確認も売り場を問わず要ります。店頭とECで方法が違うだけで、外せる売り場はありません。
価格は自分で決める。相場から引かず、原価から積む
式は3つの足し算です。ロット総額 ÷ 本数、そこに1本あたりの物流費、さらに売り場ごとに引かれる分。
小売価格をこの記事に書きません。売価を決めるのは売主で、原価も売り場も企画ごとに違うからです。 相場らしき数字を先に置くと、自分の原価と関係のない金額で企画が進みます。
1段目 — ロット総額 ÷ 本数
分子に何が入るかが、初回と2回目で変わります。 初回はデザインやEC構築を含む初期制作費が乗り、2回目以降は醸造費だけになります(TAP TO BREW、2026年9月8日時点。実額は末尾に置きました)。
同じ本数でも、1本あたりは初回が高くなります。 初回の1本あたりで採算を判断すると、2回目以降の姿を見誤ります。2つ計算して並べてください。 見積のどの欄に何が乗るかはビールOEMの見積書は、どこから読むのか、小ロットで1本が高くなる理由は小ロットのクラフトビールは、なぜ1本あたりが高いのかにあります。
2段目 — 1本あたりの物流費
送料は売り場によって、乗る場合と乗らない場合があります。 店頭に納品するだけなら1回分、ECなら注文ごとに1件分です。
クール便が要るかどうかは商品ごとの保存方法の指定で決まります。各社の公開運賃から1本あたりを出す手順はビールの送料は1本いくら乗るのかにまとめてあります。缶か瓶かで重量も変わるので、容器を決める段階で一度計算しておくと後戻りしません(缶と瓶、どちらにするか)。
3段目 — 売り場ごとに引かれる分
委託販売の手数料、卸の掛け率、ECの決済手数料、ふるさと納税のポータル手数料。名前は違いますが、どれも売価から引かれて手取りが減る点は同じです。
同じ売価でも、売り場が違えば手取りが違います。 だから売り場を1つ足すたびに、この3段目だけを差し替えて計算し直します。先に売価を決めてしまうと、この差し替えができません。
式の形だけ先に持っておけば、見積が出た日に埋まります。 逆に、相場から売価を決めて原価を後から当てると、合わないときに削る先がラベルか本数しか残りません。
ふるさと納税に出すなら、2026年10月1日から前提が変わる
先に効くのは地場産品基準です。加えて、2026年10月1日に始まる指定対象期間から、募集費用側の基準の根拠が告示から法律へ移ります。
地場産品基準は、返礼品にできるかどうかの入口
地方税法第37条の2第2項は、総務大臣が指定する自治体の基準を並べています。現行の条文では第3号が、返礼品等は当該自治体の区域内において生産された物品等で総務大臣が定める基準に適合するものであること、と定めています(e-Gov 地方税法、2026年9月8日に条文を取得して確認)。
よそのブルワリーで醸造したビールが返礼品になるかどうかは、ここで決まります。 判定の読み方はよそのブルワリーで醸造したビールを、ふるさと納税の返礼品にできるのかにまとめてあります。企画の初期に当てておく基準です。
10月1日から、条番号と基準の置き場所が動く
2026年10月1日施行の改正で、募集費用に関する基準が地方税法本文へ入り、同項の号が1つずつ後ろへずれます(地場産品基準は第3号から第4号へ)。あわせて総務大臣の告示の条番号も動きます(e-Gov 地方税法 令和8年10月1日施行版/平成31年総務省告示第179号・令和8年10月1日適用版、同日確認)。
新しい基準は一度に来るのではなく、指定対象期間の初日ごとに段階的に上がります。 逆算の仕方は経費5割ルールは2026年9月で終わるに、初日ベースの表で分解してあります。古い資料を号番号だけで照合しないでください。
寄附額と返礼品の調達価格をこの記事に書かないのは、どちらも自治体が決めるものだからです。事業者側が用意するのは、地場産品基準への当てはめと、納期を含む供給の条件です。
やらないほうがいい場合
3つあります。当たっているなら、発注より先に片を付けるものがあります。
売主が決まっていない
「地域で売る」「みんなで売る」は主語が決まっていません。罰則がかかるのは売った主体なので、ここが空欄のまま製造に進むと、できあがってから置き場所が無くなります。
品目の選択を先送りしている
産品を入れることが目的になっていて、「ビール」と表示したいのか、発泡酒でよいのかを決めていない状態です。ラベルの品目表示は後から変えられません。 デザインを先に走らせると刷り直しになります。
売り場を1か所も押さえないまま本数を増やす
48本でも、置き場所が無ければ在庫です。 1日あたり何本出るかの見込みが立っていない段階で本数を増やす判断は、売り場を押さえてからでも遅くありません。
見送っても残るものはあります。 名前と商標の確認、ラベルの方向、売り場との合意。この3つは先に固めておけば、条件が揃った時点でそのまま使えます。
費用の目安・期間・最低ロット
TAP TO BREW の場合、最低ロットは350ml缶48本、初期制作費は50〜70万円(うちOEM醸造費20〜25万円)、初回相談からリリースまで概ね2〜3ヶ月です。2回目以降はOEM醸造費のみ(20〜25万円/ロット)で、デザインとECは初回で構築済みのため追加はかかりません(TAP TO BREW / TSURATSURA サービス、2026年9月8日時点)。
この2〜3ヶ月に、免許の取得期間は入っていません。 依頼側が自分で売主になる形を選ぶなら、その申請期間を別に足してください。地元の産品を原料に使う場合は、収穫の時期を待つ分もこの期間の外に乗ります。
売り場の候補と、使いたい産品の名前だけ決まっていれば、売主をどちらの形にするかと、要る免許の並びまで初回で片が付きます。
よくある質問
Q. 地域限定ビールを作るのに、自治体や観光協会は酒類の免許が必要ですか。 売主になるなら必要です。免許は売る主体に販売場ごとにかかります(酒税法第9条第1項)。TAP TO BREW の場合は連携先の醸造所・花園クラフト(大阪府東大阪市)が製造し、販売元となるため、その形をとる限りにおいて依頼側は免許なしでEC販売まで進められます。自分の名前で棚に並べる、自分のストアで売るなど、自分が売主になる形を選ぶ場合はこの形は使えず、その主体に免許が要ります。
Q. 地元の特産品は、必ず原料として入れないといけませんか。 入れなくても成立します。扱い方は原料に入れる、名前と絵柄で出す、売り場を絞るの3通りで、制度上の重さが違います。原料に入れると品目がビールか発泡酒かを判定する工程が増えるので、「ビール」と表示したいかどうかを先に決めてから選んでください。
Q. 小売価格はどうやって決めればいいですか。 原価から積みます。ロット総額を本数で割った1本あたりに、1本あたりの物流費と、売り場ごとに引かれる手数料や掛け率を足すのが下限です。初回は初期制作費が乗るので2回目以降より高くなります。売り場によって手取りが変わるため、売り場を足すたびに計算し直してください。
出典
- e-Gov 酒税法(昭和28年法律第6号)第9条第1項、第56条第1項第1号(2026年9月8日に条文を取得して確認。販売場ごとの免許、販売の代理業・媒介業を含むこと、自己の営業場で飲用に供する業のただし書き、罰則)
- e-Gov 地方税法(昭和25年法律第226号)第37条の2第2項(同。現行の第3号が地場産品基準)
- e-Gov 地方税法 令和8年10月1日施行版(同。募集費用の基準が本文へ入り、号が1つずつ後ろへずれる)
- 総務省「平成31年総務省告示第179号」令和8年10月1日適用版(同。告示側の条番号の移動)
- TAP TO BREW サービスページ(2026年9月8日時点。最低ロット350ml缶48本、初期制作費50〜70万円、うちOEM醸造費20〜25万円、2回目以降はOEM醸造費のみ、製造・販売元は醸造所の花園クラフト)
- TSURATSURA サービス一覧(同。初回相談からリリースまで概ね2〜3ヶ月)