自分の醸造所を持つには、年間どれだけ作らないといけないのか
ビールは年60キロリットル、発泡酒は年6キロリットルです。 酒税法7条2項が品目ごとに「最低製造数量基準」を定めていて、この数量に届かない計画では製造免許を受けられません。
国税庁もQ&Aで「製造免許を受けた後1年間の製造見込数量が一定の数量に達しているかどうか(最低製造数量基準、ビールについては60キロリットル)を審査し」と書いています(国税庁 お酒に関するQ&A【酒類製造免許関係】Q5)。
品目ごとに数量が違う
酒税法7条2項の条文から、主なものだけ抜き出します(e-Gov 酒税法)。
- 清酒 — 60キロリットル
- 連続式蒸留焼酎 — 60キロリットル
- ビール — 60キロリットル
- 単式蒸留焼酎・みりん — 10キロリットル
- 発泡酒 — 6キロリットル
- 果実酒・ウイスキー・ブランデー・リキュール・スピリッツ — 各6キロリットル
免許は品目別・製造場ごとです(同法7条1項)。ビールと発泡酒の両方を造るなら、どちらの免許も要ります。
審査されるのは「見込数量」であって実績ではない
条文は「製造免許を受けた後一年間に製造しようとする酒類の見込数量」と書いています。つまり免許の段階では、設備・原料の手当て・販売計画から積み上げた見込みが審査対象です。実績がその後どう扱われるかは、この記事の4つ目の見出しで扱います。
なぜ60キロリットルなのか
国税庁 税務大学校の論叢が、国会答弁を引いて理由を整理しています。「酒税は、事業者所得等と異なり赤字企業であっても納税する必要があるため、納税が確保されるためには、一般に採算がとれる程度の製造規模であることが必要」——つまり酒税を確実に取るための足切りです。あわせて「国民の保健衛生との関係から経営不振等による品質不良酒類の製造が行われないようにすること」も趣旨とされています(毛利泰浩「酒類の製造免許における最低製造数量基準の在り方について」税務大学校論叢110号(令和5年6月))。
60キロリットルは350ml缶で何本か
171,428本です。 式はこれだけです。
60,000 L ÷ 0.35 L = 171,428.57…本
容器別に換算する
同じ60キロリットル(60,000リットル)を、容器で割り直したものです。単純な割り算なので、仕込みや充填で出るロスは含んでいません。
- 350ml缶 — 171,428本(60,000 ÷ 0.35)
- 500ml缶 — 120,000本(60,000 ÷ 0.5)
- 350ml缶24本入りケース — 約7,142ケース
- 20リットルの樽に詰めるなら — 3,000本
発泡酒の6キロリットルは、この10分の1です。350ml缶で17,142本(6,000 ÷ 0.35)、24本入りで約714ケースになります。
1年で割ると、週に何本売る計算になるか
171,428本を52週で割ると、週あたり約3,296本。365日で割れば1日あたり約469本です。1日469本は、350ml缶24本入りで約20ケース分を毎日出し続ける規模です。
この数字は「造る量」であって「売れる量」ではない
最低製造数量基準が見るのは製造数量です。売れ残りは基準を満たす助けになりません。在庫を積んで数字を作る形にすると、そのまま資金が寝ます。 逆に言えば、60キロリットルという数量は「造る設備」より先に「売る導線」の話になります。
だから発泡酒の免許から入る醸造所がある
発泡酒の基準はビールの10分の1で、しかも麦芽比率50%以上なら酒税額はビールと変わらないからです。 品目が違っても、税率表の区分は麦芽比率で分かれます。
麦芽比率50%以上の発泡酒は、税率がビールと同じ
2026年9月30日まではビールも麦芽比率50%以上の発泡酒も1キロリットルあたり181,000円、2026年10月1日以降は155,000円に一本化されます(財務省「酒税に関する資料」)。税額の内訳は2026年10月の酒税改正で分解しています。
つまり、ビールの定義から外れる副原料を使う設計にすると、免許の入口は6キロリットルまで下がるのに、酒税は変わらないという組み合わせが成立します。
制度が実際に効いた場面がある
平成29年度税制改正でビールの定義が広がったとき、平成30年3月31日現在で発泡酒の製造免許を有していた者に対してビールの製造免許が付与されました。ビールの免許場数が平成30年以降に大きく増えた要因はこれだと、前掲の税務大学校論叢が注記しています。
ただし「発泡酒から入った醸造所が何場あるか」を示した公表統計は見当たりません。ここは制度上そうなる、という話として読んでください。
代わりに、ラベルの品目表示は「発泡酒」になる
税額が同じでも、容器に書く品目名は変わります。表示のルールはオリジナルビールのラベル表示義務でまとめています。
基準は取得時だけの話ではない
酒税法12条4号が、3年以上引き続き製造数量が60キロリットルに達しない場合は製造免許を取り消すことができる、と定めています。 免許を取ったあとも数量は見られ続けます。
条文はこう書いてある
酒税法12条は取消し事由を並べていて、うち2つが数量に関わります。
- 3号 — 3年以上引き続き酒類を製造しない場合
- 4号 — 3年以上引き続き酒類の製造数量が7条2項に規定する数量に達しない場合
実際には、60キロリットルを下回る製造場が多数を占める
税務大学校論叢が国税庁酒税課から取った数字では、令和2年度のビール製造場514場のうち、355場(69.1%、休場している64場を除くと78.7%)の製造数量が60キロリットル以下でした。分布は6キロリットル未満が152場、10キロリットル以上60キロリットル未満が143場です。
条文が「取り消すことができる」という書き方であることと、この実態は表裏です。自動で失効する仕組みではありませんが、法令上の取消し事由に当たり続ける状態ではあります。 見込数量を下回ったときの扱いは、所轄の税務署に確認してください。
数量以外の要件も並行してかかる
酒税法10条は、人的要件・場所的要件・経営基礎要件・需給調整要件・技術設備要件の5つを拒否要件として置いています。最低製造数量基準を満たしても、これらで免許が下りないことがあります。 数量は入口の1つにすぎません。
委託製造なら、この基準はかからない
製造免許は「酒類を製造しようとする者」に、製造場ごとにかかるからです(酒税法7条1項)。委託する側は製造者ではないので、60キロリットルも6キロリットルも関係しません。
依頼する側にかかるのは、製造ではなく販売の免許
酒類を売る側には別に酒類販売業免許が要ります(同法9条1項)。TAP TO BREW は、連携先の醸造所・花園クラフト(大阪府東大阪市)が製造・販売を担うため、できあがったビールを 花園クラフトが売主として販売するところまでは、依頼する側が免許を取らずに進められます(TSURATSURA サービス)。自社の店頭やECで自分たちが販売者として売る場合は、その主体で免許が必要です。
醸造所を持たずにブランドだけ持つ形
この形の呼び名と進め方はファントムブリュワリーとは何か、免許まわりの整理はビール製造免許なしでオリジナルビールを販売する方法で扱っています。委託・自前を含めた事業モデルの比較はクラフトビールビジネスの始め方にあります。
自前に切り替える判断点はどこか
年60キロリットル=350ml缶171,428本を、3年続けて出せる見込みが立つかどうかです。 免許の要件が3年で見られる以上、判断の単位も1年ではなく3年になります。
数量以外に、兼業の実態も見ておく
前掲の論叢が引く国税庁「地ビール等製造業の概況(平成30年度調査分)」では、ビール事業を専業とする者は事業者全体の7.3%、ビール事業割合が10%未満の者が44.8%でした。醸造所を持つ事業者の多くが、他の主業と兼ねています。飲食店や宿泊施設を既に持っているかどうかで、同じ60キロリットルの重さが変わります。
品目をまたぐ合算の特例に、ビールと発泡酒の組み合わせは無い
酒税法7条3項と酒税法施行令12条の2は、最低製造数量基準の適用除外を列挙しています。清酒とみりん、果実酒と甘味果実酒、ウイスキーとブランデーなどの組み合わせはありますが、ビールと発泡酒を合算してよいという規定はありません(e-Gov 酒税法施行令)。両方造るなら、ビール側で60キロリットルの見込みが要ります。
委託で進める場合の、費用・期間・最低ロット
金額そのものは案件ごとに幅があるため、この記事では相場を書きません。何がその幅を作るかだけを置きます。
- 費用 — 醸造費(酒税を含む)/ラベルのデザインと印刷/缶・瓶・カートンなどの資材/保管と配送/EC構築の5つに分かれます。どこまで含めるかを先に決めないと、他社の見積と前提が揃いません
- 期間 — レシピ試作、ラベル制作と表示確認、醸造、充填、検査の順に進みます。自分たちの都合で動かせないのは醸造所の仕込み枠です
- 最低ロット — 一度の仕込みで造る量は醸造所ごとに決まっていて、それを下回る発注はできません。この記事の171,428本は免許の基準を缶数に直した数字で、委託の最低ロットとは無関係です
自前と委託のどちらから入るかは、初回のヒアリングで作りたい本数と売り先を聞けば、判断材料まで整理できます。費用・期間・最低ロットの3点も、そのあと見積としてまとめてお渡しします。
出典
- e-Gov 酒税法(昭和28年法律第6号)第7条・第9条・第10条・第12条(2026年9月5日確認)
- e-Gov 酒税法施行令第12条の2(最低製造数量基準の適用除外)(同)
- 国税庁「お酒に関するQ&A【酒類製造免許関係】Q5」(同)
- 国税庁 税務大学校 毛利泰浩「酒類の製造免許における最低製造数量基準の在り方について」論叢110号(令和5年6月)(同)— 製造場数・製造数量の分布・兼業割合はいずれも同論文(本文PDF 264〜266頁)
- 東京国税局「ビール・発泡酒に関するもの」(同)— 平成6年4月の改正でビールの最低製造数量が引き下げられた経緯
- 財務省「酒税に関する資料」(同)