酒類は省略できる。ただし自分で書いた瞬間に義務になる
ビールのラベルに栄養成分表示は要りません。ただし、栄養に触れる表示をこちらから1つでも入れると、そのとき5項目すべてを基準どおりに書く義務が発生します。
食品表示基準第3条第3項は、義務表示のうち省略できるものを表で並べています。「栄養成分の量及び熱量」の欄に挙がっているのは5つで、その二番目が酒類です(e-Gov 食品表示基準)。同じ欄には「保存の方法」「消費期限又は賞味期限」も酒類として挙がっています。
ただし、この欄には最初から括弧書きが付いています。原文はこうです。
以下に掲げるもの(栄養表示(栄養成分若しくは熱量に関する表示及び栄養成分の総称、その構成成分、前駆体その他これらを示唆する表現が含まれる表示をいう。以下同じ。)をしようとする場合、特定保健用食品及び機能性表示食品を除く。)
「栄養表示をしようとする場合」を除く、と書いてあります。 省略できるのは、栄養について何も書かないときだけです。
国税庁も同じ線で説明している
国税庁は「食品表示法における酒類の表示のQ&A」で、酒類が省略できるのは保存の方法・消費期限又は賞味期限・栄養成分の量及び熱量の3つだと整理したうえで、これらを表示する場合は食品表示基準に沿った表示を行う必要があると注記しています。さらに問29で「栄養表示を任意に表示した場合には、栄養成分(たんぱく質、脂質、炭水化物及びナトリウム)の量及び熱量の表示を省略できないこととなります」と明示しています(国税庁 食品表示法における酒類の表示のQ&A 問25・問29)。
省略は「書かなくてよい」であって「書いてはいけない」ではない
栄養成分表示を載せること自体は自由です。輸出を見据えている場合や、卸先の書式に合わせる場合は、載せる判断もあります。選べるのは載せるかどうかだけで、載せると決めたあとの書き方は選べません。
何が「栄養表示」に当たるのか
成分名そのものだけでなく、栄養成分の総称・構成成分・前駆体、そして「これらを示唆する表現」までが栄養表示です。 ラベルのコピー1行で義務が発生します。
条文の定義(前掲・第3条第3項の表)が拾う範囲は広く、次のようなものが含まれます。
- 「カロリー」「熱量」「kcal」— 熱量に関する表示
- 「糖質」「糖類」「食物繊維」「たんぱく質」— 栄養成分そのもの
- 「糖質ゼロ」「カロリーオフ」「糖質50%オフ」— 量に関する表示
- 「糖類無添加」「糖類不使用」— 添加していない旨の表示
このうち「◯◯ゼロ」「◯◯オフ」の類は、食品表示基準第7条の強調表示にも同時に当たります。あとで見るとおり、強調表示を選ぶと数値の出し方の自由度がさらに1段落ちます。
「糖類無添加」はビールでも書けるとは限らない
国税庁は清酒について、麹菌の作用で原料の米を糖化させるため、製品に含まれる糖類が原材料に含まれていた量を超えると考えられ、糖類を原料として使っていなくても「糖類不添加」とは表示できないと判断しています(前掲Q&A 問28)。根拠は第7条の《糖類を添加していない旨》の要件の三です。
ビールについて同じ判断を示した公表資料は見つけられませんでした。麦のでん粉を糖化させてから発酵させる工程は清酒と共通なので、同じ論点に当たる可能性があります。 表示を決める前に、醸造所を通して所轄の税務署へ確認するのが確実です。
商品名とキャッチコピーも表示の一部として見られる
栄養表示に当たるかどうかは、一括表示欄の中身だけで決まりません。主要面の商品名やキャッチコピーに書いた場合も、容器包装への表示です。 デザイン上の一言のつもりで「軽やか」ではなく「糖質すっきり」と書けば、裏面に5項目の枠が要ることになります。ラベルに載せる項目全体の並べ方はオリジナルビールのラベル表示義務で扱っています。
書くと決めたら、5つを、この順で、この単位で
書くのは熱量・たんぱく質・脂質・炭水化物・食塩相当量の5つです。この順序で、100mLなどの食品単位あたりの量を、別記様式二の枠に入れて表示します。
第8条第3号が、栄養成分の量及び熱量の表示は別記様式二により行うと定めています。この5つ以外の成分も併せて表示する場合は別記様式三です。並び順は熱量・たんぱく質・脂質・炭水化物・食塩相当量(消費者庁 栄養成分表示について)。ただし、様式による表示と同等程度に分かりやすく一括して表示される場合は、枠の形そのものは崩せます。
単位は別表第九が決めている
熱量は kcal、たんぱく質・脂質・炭水化物は g、食塩相当量は g です(第3条第1項の表・別表第九第2欄)。
食塩相当量は、ナトリウムの量に 2.54 を掛けた値と条文が定義しています。分析値がナトリウムで返ってきても、ラベルにはナトリウムではなく食塩相当量を書きます。ナトリウム塩を添加している食品では、そもそもナトリウムの量を表示すること自体が第9条第1項第7号で禁じられています。
食品単位は100mLでも1本でもよい
条文は「百グラム若しくは百ミリリットル又は一食分、一包装その他の一単位」あたりの量と定めています。350mL缶なら「100mLあたり」でも「1缶(350mL)あたり」でも構いません。 ただし1食分を単位にする場合は、その1食分の量を併記します。
糖質を書くなら食物繊維とセットになる
国税庁は問31で、糖質を表示する場合は食物繊維とセットで表示する必要があるが、糖類のみを表示することも可能だと整理しています(別記様式三 備考4)。つまり炭水化物の内訳として認められるのは、次の2つの形です。
- 炭水化物 — 糖質 — 食物繊維
- 炭水化物 — 糖類
「炭水化物 — 糖質」だけで止めることはできません。 糖質を見せたいなら、食物繊維の分析も必要になります。
数値は分析しなくても出せる。ただし条件が2つある
原材料の栄養成分量からの算出など、合理的な推定で得た値を表示できます。条件は「実測値と一致しない可能性がある旨の表示」と「根拠資料の保管」の2つです。
第3条第1項の表・栄養成分の量及び熱量の項の2が、この2要件を満たす場合に推定値の表示を認めています。実務では「推定値」または「この表示値は目安です」といった一文を枠の近くに置く形になります。
分析値で書く場合は、±20%の許容差に収まる必要がある
一定の値で表示するときは、別表第九第3欄の方法で測った値が、表示値を基準とした同表第4欄の許容差の範囲内でなければなりません。5項目の許容差はいずれも ±20% です。ただし例外があります。
- 熱量 — 100mLあたり25kcal未満の場合は ±5kcal(測定は修正アトウォーター法)
- たんぱく質・脂質・炭水化物 — 100mLあたり2.5g未満の場合は ±0.5g
下限値と上限値を幅で書く方法もあります。 その場合は測定値がその幅の中にあればよく、許容差の計算は要りません。
「0」と書ける量と、「ゼロ」と強調できる量は別の基準
100mLあたりの量が別表第九第5欄の量に満たなければ、0と表示できます。熱量は 5kcal、たんぱく質・脂質・炭水化物・糖質・糖類・食物繊維はいずれも 0.5g です。
一方、「糖質ゼロ」のように含まない旨を強調する場合は、第7条と別表第十三の基準値で判定します。飲用に供する液状の食品100mLあたりで、熱量は 5kcal未満、糖類は 0.5g未満。「低い旨」(オフ・ライトなど)は熱量 20kcal以下、糖類 2.5g以下です。
そしてここが実務で効きます。 第3条第1項の表の2のただし書は、糖類を添加していない旨の表示や、栄養成分・熱量の適切な摂取ができる旨の表示をする場合、推定値による表示を認めていません。「糖質ゼロ」と書くなら、分析値が要ります。
数値を載せても、意味づけのコピーは添えられない
酒類が保健機能食品になる道はありません。 食品表示基準第2条第1項第10号の機能性表示食品の定義から、アルコールを含有する飲料が除外されているためです。国税庁も問24で「酒類は対象となりません」と明示しています(前掲Q&A)。栄養機能食品についても、問27で「酒類について、栄養機能食品の表示をすることは望ましくないと考えます」としています。
さらに第9条第1項第10号は、保健機能食品以外の食品に、保健機能食品と紛らわしい名称・栄養成分の機能・特定の保健の目的が期待できる旨を示す用語を表示することを禁じています。 栄養成分表示を載せること自体は自由でも、そこに意味づけのコピーを添えることはできません。
文字の大きさと枠の面積は、デザインを起こす前に決める
義務表示に使う文字は8ポイント以上、表示可能面積がおおむね150平方センチメートル以下なら5.5ポイント以上です。文字と枠の色は背景と対照的な色にします。
第8条第8号と第9号の規定です。ポイントは日本産業規格 Z8305 に基づきます。自社の容器の表示可能面積が150平方センチメートルを挟んでどちら側になるかで、必要な文字の大きさが変わります。 缶か瓶か、ラベルを巻く範囲をどこまで取るかで前後するので、版下の寸法が出た段階で確認します。
枠は2つある。一括表示欄と栄養成分表示は別物
第8条第3号は、名称・原材料名・添加物・内容量・食品関連事業者などを別記様式一(一括表示欄)で、栄養成分の量及び熱量を別記様式二(または三)で表示すると分けています。栄養成分表示を載せると決めた時点で、裏面に確保すべき面積が1枠分増えます。
酒類の品目の文字の大きさは、食品表示基準ではなく酒類業組合法の側で別に決まっており、内容量と文字数に応じた基準です(前掲Q&A 問32)。同じラベルの中に、根拠法の違う文字サイズ規定が2系統走っていると考えてください。
原材料名とアレルゲンも、酒類は表示義務が無い
第5条第1項が、酒類を販売する場合は原材料名・アレルゲン・原産国名の表示を要しないと定めています。ただし表示するなら、第41条により第3条・第4条に定める方法で表示するよう努める義務がかかります。「書かなくてよい」を「自由に書いてよい」と読み替えないところが、栄養成分表示と同じ構造です。
なお清酒は清酒の製法品質表示基準により原材料名の表示義務があり、国内製造ワインは果実酒等の製法品質表示基準がかかります(国税庁 食品表示法の概要(酒類表示編))。ビールにはこれらの基準がありません。
デザイン前に決めておく3つ
- 栄養成分表示を載せるか(載せないなら、栄養に触れるコピーを全面的に使えない)
- 食品単位をどれにするか(100mLか、1缶あたりか)
- 推定値で出すか、分析値で出すか(強調表示をするなら分析値一択)
この3つが決まらないと裏面のレイアウトが確定しません。デザインの進め方そのものはビールラベルのデザイン作成ガイドにまとめています。
費用・期間・最低ロット — 栄養成分表示で何が動くか
TAP TO BREW の場合、最低ロットは350ml缶で48本、初期制作費は50〜70万円(うちOEM醸造費20〜25万円)、初回相談からリリースまでは概ね2〜3ヶ月です(TSURATSURA サービス)。栄養成分表示を載せる判断は、この3つのうち費用と期間に効きます。
費用 — 分析を入れるかどうかで変わる
推定値で出すなら、増えるのは根拠資料をまとめる工数だけです。強調表示をする場合は分析が必須になり、外部の検査機関の費用が別に乗ります。 金額は依頼する項目数と機関によって幅があるため、ここでは書きません。見積の前に、上の「デザイン前に決めておく3つ」を確定させてください。
期間 — 分析はレシピが固まってからしか始められない
分析用のサンプルは、最終レシピで仕込んだものでなければ意味がありません。分析を入れると、レシピ確定から印刷発注までの間に検査の待ち時間が挟まります。 逆算の考え方はビールOEMの納期はどれくらい?で分解しています。
最低ロット — 表示の判断では動かない
最低ロットは仕込み単位で決まるもので、栄養成分表示の有無では変わりません。分析用のサンプルは製品から取るため、ロットを増やす必要もありません。
迷ったら、栄養に触れないラベルが一番安い
栄養成分表示は、酒類では載せないが既定です。載せると決めた瞬間に、5項目・順序・単位・許容差・枠の面積が一式ついてきます。しかも酒類は保健機能食品になれないので、手間をかけて数値を載せても、その数値に意味づけを添えることはできません。
TAP TO BREW は、株式会社TSURATSURA が運営するクラフトビールのOEM・ブランド構築サービスです。連携先の醸造所・花園クラフト(大阪府東大阪市)が製造し、販売元となるため、できあがったビールを 花園クラフトが売主として販売するところまでは、依頼する側が免許を取らずに進められます(前掲サービスページ)。ラベルに載せる項目の判定は、レシピと販路を決める打ち合わせでそのまま片が付きます。
作りたいビールの方向と、だいたいの本数が決まっていれば、初回で表示まわりの見通しが立ちます。OEM全体の流れはクラフトビールOEMの始め方完全ガイドにあります。
出典
- 食品表示基準(平成27年内閣府令第10号) — 第2条第1項第10号、第3条第1項・第3項、第5条第1項、第7条、第8条、第9条第1項、第41条、別表第九、別表第十三(e-Gov 法令検索、令和8年4月1日施行版。2026年9月5日確認)
- 国税庁「食品表示法における酒類の表示のQ&A」PDF(平成30年7月。問24、25、27、28、29、31、32。同日確認)
- 国税庁「食品表示法の概要(酒類表示編)」PDF(令和2年3月。同日確認)
- 消費者庁「栄養成分表示について」(同日確認)
- TSURATSURA サービス(同日確認)