税がかかるのは、製造場から出したとき
酒税の納税義務が成立するのは、酒類が製造場から移出された時です。 契約日でも、仕込み日でも、請求日でもありません。だから2026年(令和8年)10月1日をまたぐ案件は、出荷日がどちら側にあるかだけで税率が決まります。
国税庁の原文は「酒類の製造者……酒類の製造場からの移出の時」です(国税庁 お酒に関するQ&A【総則】Q4)。税率そのものがいくらになるかは2026年10月の酒税改正で扱っているので、ここでは切替日の実務だけを書きます。
すでに出荷した在庫は、手持品課税(戻税)で追いかける
出荷済みの在庫が旧税率のまま放置されるわけではありません。令和8年10月1日午前0時の時点で流通段階にある課税済みの酒類には、新旧税率の差額を調整する措置(手持品課税・手持品戻税)がかかります。 税率が上がる酒類には差額が課税され、下がる酒類には差額が戻ります(国税庁 酒類の手持品課税(戻税)について)。
日付は3つです。基準時が令和8年10月1日午前0時、申告・届出の期限が令和8年11月2日(月)、差額の納付が必要な場合の納期限が令和9年3月31日(水)(リーフレット)。判定は帳簿上の数字ではなく、午前0時現在の実際の所持数量で行うため、実地棚卸が要ります(Q&A 問6)。
対象は「販売のために所持する」酒類
ここがオリジナルビールでは効きます。国税庁のQ&Aは、パチンコ店等が景品交換用に所持する酒類について「酒類の販売業者等が販売のために所持するものではありませんから、手持品課税等の対象となりません」と答えています(同 問10)。無償で配るノベルティとして在庫を持っているだけなら、手持品課税の話に入りません。
同じQ&Aの問9は、他の者が所有しているものと、自己の用に供しているもの(個人的消費・試験研究用・展示見本など)を、帳簿等で事実が明らかで、かつ他と区分して蔵置していれば所持数量に含めなくてよい、としています。逆に言えば、区分せずに同じ棚へ積んでいると分けられません。
9月出荷と10月出荷で、同じ商品の原価が違う
ビールは1リットルあたり26円、350ml缶1本あたり9.1円ぶん、10月出荷の方が安くなります。 国税庁が手持品戻税の対象額として示している金額そのものです(前掲リーフレット)。
効くのは1本の差ではなく、本数
350ml缶1本で9.1円なので、1,000本で9,100円、10,000本で91,000円です。1本あたりの差だけを見て「誤差」と切り捨てると、ケース単位・パレット単位の取引で数字が合わなくなります。
見積の中で、酒税は醸造費に含まれている
依頼する側が税務署に何かを出すわけではなく、酒税は醸造費の中に入って見積に乗ります。内訳の見方はご当地ビールの製造費用で扱っています。請求書の項目が1つ増えるのではなく、単価が動きます。
分納するなら、出荷ごとに単価が変わる
同じロットを9月と10月に分けて引き取る場合、同じ商品で2つの単価が並びます。 納品書と請求書をどちらの出荷分か分かる形にしておかないと、後から突き合わせられません。工程の逆算はビールOEMの納期はどれくらい?を参照してください。
どちらに動くかを取り違えない
下がるのはビールと麦芽比率50%以上の発泡酒、上がるのは麦芽比率25%未満の発泡酒・いわゆる新ジャンル・チューハイなどのその他の発泡性酒類です。 「10月に酒税が下がる」と一括りにすると、上がる側の商品で原価を読み違えます。
1リットル・1本あたりの増減(国税庁の区分そのまま)
- 引下げ ビール/発泡酒(麦芽比率50%以上又はアルコール分10度以上)/発泡酒③ — 26円/L【350ml缶1本 9.1円】
- 引上げ 発泡酒(麦芽比率25%未満かつアルコール分10度未満)/発泡酒②(いわゆる新ジャンル) — 約21円/L【約7.26円】
- 引上げ その他の発泡性酒類(発泡性を有するものかつアルコール分10度未満。チューハイなど) — 20円/L【7円】
出典はいずれも前掲のリーフレットです。
判定は、ラベルの表示で足りる
自社の商品がどちら側かは、容器等の表示で見分けられます。国税庁の手引は、麦芽比率25%未満のものには「麦芽使用率25%未満」と記載されており、「麦芽使用率50%以上」や「麦芽使用率25%以上50%未満」と表示されているものは引上対象に該当しないと明記しています(申告等の手引)。新ジャンルは「発泡酒②」の表示です。
副原料を多く入れた企画では、この麦芽比率の線が先に効きます。スタイルの選び方はOEMで人気の定番スタイル7選にまとめてあります。
9月末に出した見積が10月に発注される場合
酒税は出荷日の税率で決まるため、見積に「酒税は出荷日時点の税率による」旨と有効期限を1行入れておけば足ります。 見積を出し直す必要はありません。
見積書に入れる1行
「本見積の酒税は2026年9月30日までの出荷を前提としています。2026年10月1日以降の出荷分は改正後の税率で再計算します」——この程度で、後の差額交渉が起きなくなります。有効期限を空欄にしたまま10月をまたぐと、旧税率の見積が生きているように読まれます。
自社で在庫を持つなら、2,000リットルの線を見る
申告義務が生じるのは、10月1日午前0時に引上対象酒類を2,000リットル以上所持している販売業者等です。複数の場所に置いている場合は合計で判定します(前掲Q&A 問4・問7)。
引下対象であるビールだけを持っている場合、この義務はかかりません。ただし戻税の還付を受けたいなら、こちらから届出を出す必要があります。 引上対象酒類が2,000リットル未満でも、令和8年11月2日までに所轄税務署長へ「手持品課税等対象酒類の酒税納税申告書兼酒税の手持品課税等の適用を受ける旨の届出書」を提出すれば申告できます(同 問17)。350ml缶2,000本で戻る額は18,200円です。手続きの手間と釣り合うかは、本数を見てから判断してください。
午前0時に輸送中のものは、荷受人の側で数える
10月1日午前0時に輸送中だった酒類は、荷受人がその荷受先となるべき貯蔵場所で所持しているものとして扱います。ただし、どちらが手持品課税等を行うかを確認書等で明らかにしていれば、当事者間で調整して差し支えありません(同 問8)。確認書は関係帳簿とともに保存します。
上代を据え置くか下げるか
国税庁は、引下げ相当額は販売価格の引下げを通じて適正かつ合理的に転嫁されるべきである、と事業者団体へ要請しています(令和8年7月1日付/酒税法の改正に伴う増減税相当額の適正な転嫁等について)。据え置く判断もあり得ますが、要請の存在を知らずに決めるのと、知った上で決めるのは別です。
原材料費や物流費の転嫁は妨げられない
同じ要請文に「酒税増減税相当額の転嫁に伴う価格改定に際し、近年の原材料費、物流費等の各種コストの上昇分に係る価格転嫁が妨げられるものではないことに留意すること」と書かれています。酒税が下がる分と、資材や物流が上がる分は、別々に説明できます。 相殺した結果として上代が動かないなら、その内訳を示せる形にしておきます。
価格改定の条件は、事前に協議する
要請の2つ目は「優越的地位の濫用などの独占禁止法の規定に抵触することのないよう十分配慮すること」「価格改定に際しての取引条件の決定については、コスト上昇分の価格転嫁も含め、売り手と買い手の間であらかじめ十分な協議を行うことが重要であること」です。一方的な通告で切り替えない、というのがこの一文の実務上の意味です。
缶1本9.1円は、上代の刻みに合わない
小売価格は10円単位で置くことが多く、9.1円をそのまま反映させると半端が出ます。ケース単位の卸値で調整するのか、上代を据え置いて内訳の説明に回すのかは、取引の形で変わります。どちらにしても、決めた根拠を残しておくことが先です。
取引先への通知に書く4点
適用の基準日・対象商品と増減の向き・切替後の価格・またぐ在庫の扱い、の4点です。 これ以上増やすと読まれません。
1. 基準日は「出荷日」であること
契約日でも受注日でもなく、製造場からの移出日で決まります。通知の中で日付の基準を1回だけ定義しておくと、以降の問い合わせが減ります。
2. 対象商品と、上がるのか下がるのか
品目単位ではなく商品単位で並べます。ビールと発泡酒(麦芽比率25%未満)を両方扱っているなら、同じ通知の中で逆方向の改定が並ぶことになります。
3. 切替後の卸値と上代
新旧の金額を並べ、酒税相当額とそれ以外を分けて書きます。前掲の要請にある「適正かつ合理的な転嫁」を説明できる形です。
4. 10月1日をまたぐ在庫を、どちらが手持品課税等を行うか
輸送中の分は確認書等で当事者間の調整ができます(前掲Q&A 問8)。通知の段階で決めておかないと、11月2日の期限が近づいてから連絡することになります。 あわせて、対象酒類の受入れ・払出しの記帳は確実に行ってください(前掲リーフレット)。
費用の目安・期間・最低ロット
TAP TO BREW の場合、公開しているサービスページの数字は次の3つです(TAP TO BREW・サービス/2026年9月5日時点)。
- 最低ロット — 350ml缶で48本から
- 費用 — 初期制作費50〜70万円(うちOEM醸造費20〜25万円)。以降は継続支援費の2層構成
- 期間 — 初回相談からリリースまで、概ね2〜3ヶ月
酒税の増減は醸造費の中に含まれるため、上の初期制作費の枠の中で動きます。この規模なら、10月をまたぐかどうかを費用で判断する場面はほとんどありません。 判断が要るのは、すでに在庫を持ち、継続して出荷している場合です。
なお、製造・販売を醸造所の花園クラフトが担う形であれば、依頼する側で酒類の販売業免許を取る必要はありません。連携先の醸造所・花園クラフト(大阪府東大阪市)が製造し、販売元となるためです(TSURATSURA サービス)。自社で売主になる場合は、その主体で免許が要ります。
出荷の予定時期とだいたいの本数が決まっていれば、どちらの税率で見積を組むかは初回で片が付きます。
出典
- 国税庁「お酒に関するQ&A【総則】Q4」(2026年9月5日確認)
- 国税庁「酒類の手持品課税(戻税)について」(同)
- 国税庁「令和8年10月1日に酒類の手持品課税(戻税)が実施されます」リーフレット(PDF)(同)
- 国税庁「酒類の手持品課税(戻税)の申告等の手引(令和8年10月1日分)」(PDF)(同)
- 国税庁「手持品課税・手持品戻税に関するQ&A」(令和8年9月2日更新・PDF)(同)
- 国税庁「酒税法の改正に伴う増減税相当額の適正な転嫁等について」(令和8年7月1日)(同)